2014.04.14
KBA事例研究ツアー【下】 世界最長の菊全機19胴のユニットフル活用
Amcor社
世界最長の菊全判枚葉オフセット印刷機を持つAmcor社は、オーストラリアのメルボルンに本社を構える会社。1861年創業の同社は、300の工場を持ち、70億ユーロの売上を誇る世界最大級のパッケージ印刷会社だ。タバコ、飲料、食品、日用品、医薬品などあらゆる分野のパッケージを取り扱う同社では、世界のパッケージ印刷市場をリードする魅力的な新製品やアプリケーションの開発、顧客から寄せられる要望に応えるためのテスト印刷や試作品製作を日々行っている。その役割を担っているのがスイスの首都ベルンの郊外にあるイノベーションセンターで、世界最長の菊全判枚葉オフセット印刷機はここで稼働している。
2012年に導入した世界最長の菊全判枚葉オフセット印刷機はKBA製「Rapida106」の片面機で、コーター+ドライヤー×2胴+印刷ユニット×10胴(1・2胴目にはインラインフォイラーが搭載され、印刷およびコールドフォイル加工での使用可)+コーター+ドライヤー×2胴+コーター+「イナートシステム」×2胴という機械構成。この19胴のユニットをフルに活用することで、多色印刷やフォイル加工はもとより、メタリック印刷やニスを使った表現技巧、疑似エンボス加工、砂目調の表面処理などをはじめ、華美でアイキャッチ効果に優れたデザイン表現をワンパスで印刷することが可能。この印刷機による製品開発によって同社は、パッケージ印刷技術におけるリーディングカンパニーの地位を確かなものとしている。
機械全長が長いこと以外にもこの印刷機には大きな特徴がある。それが18・19胴目に搭載する「イナートシステム」だ。「イナートシステム」とは、硬化・乾燥効率を高める、枚葉オフセット印刷では世界初となる新しいUV照射技術。UV印刷物が臭いを発する大きな要因はUVインキの成分の光重合開始剤にあるので、その配合量を少なくできれば印刷物の臭いを抑えられる。印刷物上のUVインキを硬化・乾燥させる上で阻害要因となるのが空気中に含まれる酸素だ。したがって、UV照射部から印刷紙面の間に存在する酸素を排除すれば、光重合開始剤の配合量が少ないインキで印刷ができる。そこでこの「イナートシステム」では、酸素を不活性化させるためにUV照射部付近から窒素ガスを連続噴射して硬化・乾燥効率を高めている。
「イナートシステム」の開発は世界的なタバコメーカーからの要望がきっかけ。これまでグラビア印刷で製作していたアプリケーションについて、小ロットでかつ美しく製作するためのソリューションを求められ、それに応えるためにKBAに相談を持ちかけて開発された。これまで、輪転方式のフレキソ印刷などでは「イナートシステム」と同じような技術はあったが、用紙搬送などの機構が異なる枚葉オフセット印刷でこれを実現するのは困難と言われていた。この開発により、タバコパッケージだけでなく、医薬品・化粧品・衛生用品といった臭いを極端に嫌う印刷製品でも「イナートシステム」を活用すれば製作できるようになる。また、光重合開始剤はUVインキが高価になる要因の1つでもあるので、その配合量が少ない「イナートシステム」で使用するUVインキは安価になる。同社では、使用する窒素ガスのコストは微細なレベルなので、インキ代が安価になる分だけコスト的なメリットもでている。
同社イノベーションセンターのゼネラルマネージャーを務めるDr.Reinhard Kniewske氏は世界最長の菊全判枚葉オフセット印刷機を導入したことについて、「世界のパッケージ印刷における最先端の技術や製品、表現技巧を開発するという当イノベーションセンターの革新的な機能を満たすために、このようなユニット数の多い印刷機が必要だった。さまざまな機能を付加してくれる柔軟性、これほどのユニット数の印刷機が高い見当精度で稼働できるだけの基本設計の堅牢性、そして“イナートシステム”という世界中にいまだなかったものへの開発を一緒に挑戦してくれた姿勢、そのすべてにおいてKBAに魅力を感じ、そして感謝している」と述べている。
新UV技術を開発ランプ式と互換性持つ
また、この事例研究ツアー中、KBAラデボイル工場で新しいUV印刷技術の発表も行われた。
KBAでは、照射機(ランプやLED)自体は社外品だが、それ以外のUV装置にまつわるすべての部品を自社で独自開発をしている。UV装置の設計段階から印刷機と一体となって同時開発をしているので印刷機との融和性が高く、各UV装置を胴間やデリバリー部などどこにでも移設することが可能な上、新たな課題解決にも総合的な対応を取ることができる。
この開発姿勢に裏打ちされた新技術がLED-UV照射装置だ。印刷機と一体設計されたからこそ実現した新技術、それはカセット式のランプハウスを交換するだけで、▽通常のUV、▽HR-UV(オゾンレスランプを使った省電力UVシステム)、▽LED-UV――の切り替えが簡単にできること。その切り替えは、使用したい方式のランプハウスを印刷機に入れ替えてコードを繋ぐだけ。ランプハウスの入れ替えは1人だけで、2-3分でできるとてもシンプルなシステムになっている。
各方式のUV装置を容易に切り替えられるので、▽基本的にはLED-UVを使い、ニスや特色などのLED-UVが不得手な分野については補助的に通常のUVランプに入れ替えて使う、▽将来的にランプ方式からLED-UVへと移行するにあたり、印刷機を買い替えなくても対応できる――といった、柔軟な投資計画を立てることができる。これらのUV装置はどの照射方式であっても、胴間やデリバリー部などどこにでも付け替えができ、さらに使用したい方式のランプハウスを追加購入すれば既設のUV印刷機でも同様のことができる。なお、LED-UVの照射の波長は390nmとなる。
(株)日本印刷新聞社掲載記事
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